今回は、私の様なパニック障害を抱える方と、ご家族等周りで支える方に是非お伝えしたいことを書かせて頂きます。冒頭に申し上げますが、私は医師でもメンタリストでもなくパニック障害を抱えるただの会社員です。その様な私からの言葉なんて皆さまに響くに及ばないと自覚していますし、何の資格も無い一般人からの提言で偉そうな印象を与えてしまいましたら、申し訳御座いません。ただ、これまで5年間にわたりパニック障害を経験してきた立場から、今回お伝えすることに少しでも共感いただけたら幸いです。
パニック障害を周りで支えてくださる方にお伝えしたいこと
パニック障害を抱えている方は、非常に真面目や繊細で、特に周りの方にどう見られているかにとても敏感な性格であるケースが多いはずです。もちろん人それぞれですが、私だったらこの様に接してくださると嬉しいなと感じることが3つ有ります。
1.「気の持ちよう」とは言わないで欲しい
私も家族に「そんなの気の持ちようだよ、大丈夫」とよく言われてきました。そんな言葉をかけてくれる家族に一切悪気は無いことは十分分かっていますし、精一杯励ましてくれようとしているんだなと気持ちは伝わっています。しかし、パニック障害を含む不安障害は単純に”気の持ちよう”ではないはずなのです。原因は諸説有り、断定的な原因は未だ解明されていないという話も耳にしますが、一説には脳内ホルモンのバランスの乱れ(脳の誤作動)とも言われております。確定的な事は私には分かりませんが、パニック障害で”体内に入れる薬”を処方されるということは少なくとも単なる”性格”や”気持ち”の問題だけではないと私は解釈しています。むしろ、パニック障害を抱えている方は「一日でも早くこの状態から脱したい」とか「元気になったらあんな事やこんな事がしたい」等、自身の身体の回復に対する気持ちは誰よりも強いはずです。通院している病院の診療科目は”精神科”や”心療内科”であることから、単なる心の病気と思われがちですし、気合と根性のみで乗り越えた武勇伝をお持ちの方もいらっしゃるのは事実ですが、決してパニック障害に悩む方が「気が弱い」とか「考え方が歪んでいる」とは限らないので、その点を考慮して接して頂ければ私なら嬉しく感じます。
2.今後の仕事や生活に対する不安を想起させないで欲しい
これは特にご家庭をお持ちの方に当てはまると思うのですが、私にも現在妻が居て、「パニック障害で仕事が続けられなくなり、住む所も食べる物も与えられなくなったらどうしよう」、「子どもが大人になるまでしっかりと支えてあげられる父親でいられるのか」等の不安でなかなか寝付けないことがよく有ります。私は非常に幸せ者で、家族からパニック障害に対する十分な理解を得られていますが、もし奥様や旦那様が私と同じ様な症状で悩んでいらっしゃったら、”将来の事”よりもまずは(どんなに小さな進歩でも良いので)現状からの改善という”目先の事”に向けてご本人がチャレンジできるようにサポートして欲しいと私は思います。例えば、症状のせいでお仕事をお休みしている方に「いつ復帰するの?」とか、症状に耐え切れなくてお仕事を変えたい・辞めたいと悩んでいる方に「今後の家計はどうするの?」等とは心では思っていてもご本人に向けて言わないで欲しいです。先に述べた様にパニック障害を抱えている方は非常に真面目です、正義感や責任感も人一倍強いはずです。周りの誰からも言われなくても「今後どうしようか?」という考えを常に頭の中で巡らせているはずです。国内人口の約2~5%(約240万~600万人)の方が悩んでいるパニック障害でお仕事をお休みしたり、変えたり、辞めたりした途端に住む所や食べる物が無くなることは絶対に有りません、有難くも社会があらゆる制度で守ってくれます。ならば、今の間だけ少しで良いから、焦点を”将来”よりも”現在”に向けて一歩一歩階段を上っていけるお気遣いをして頂ければ私なら嬉しく感じます。
3.怠けているのではなく身体を充電していると理解して欲しい
私自身にもよくありますが、お休みの日に一日のほとんどの時間を寝て過ごしてしまう事があります。(個人差は有ると思いますが、)そもそも服用しているお薬の副作用でどれだけ寝ても常に眠いし、起きていても広場恐怖症でどうせ外出も出来ないしやる事も無いし、起きているとパニック発作がいつ発生するか分からないので眠っている状態が最も落ち着き幸せに感じるという理由から一日中お布団から抜け出せない方も多くいらっしゃるはずです。その様な状態から、「怠けすぎでしょ」とか「そんな生活をしているからいつまでも治らないんだよ」と言われた経験が私にも有ります。確かに自律神経の観点からは一日中外で日光を浴びることもなく、寝続けているのは実際、私自身もそんな日は特に調子が良くないのですが、決して怠けたくて怠けているのではないということをご理解いただきたいのです。パニック障害で悩む多くの方は「明日にでも一般の人と同じ様に活動できる身体になりたい」と思いながらも、一気にではなくて少しずつ自分が出来る事を増やそうと心掛けているはずです。一つずつの小さな挑戦の達成によって少しずつ自信を付けていっていますが、ひとたび無理をして一度発作を起こしてしまうとしばらく立ち直ることが出来ないほどのダメージを受けてしまいます、パニック発作とはそれだけ恐ろしい経験なのです。小さな挑戦でもご本人にはとても負担がかかっていて、その都度身体を充電しなければならないので、「怠けている」ではなく「身体を充電しているんだね、お疲れ様」という気持ちで温かく見守っていただければ私なら嬉しく感じます。
パニック障害を抱える方にお伝えしたいこと
1.周りの方々に100%の理解を求めるよりも感謝の気持ちを伝えよう
パニック障害を克服した元プロ野球選手の長嶋一茂さんの著書『乗るのが怖い』に「愛する家族にも100%依存しない」と綴られていますが、私はこの言葉を目にした時、非常に共感ができました。そもそもパニック障害でない方に自身が苦しんでいる辛さを100%理解してもらうのは無理なことです。私自身、パニック障害で仕事が自分の思う様に出来なかった新婚の頃、普通に朝から晩まで外に出て一生懸命働けている妻に対して強い嫉妬の気持ちを抱いていた時期が有り、一日頑張って夜遅く帰って来た妻に対し、「何でこんなに帰りが遅いんだ」とか「自分がこんなに苦しんでいるのに何でもっと一緒にいてくれないんだ」等、酷い言葉を浴びせていました。今になって振り返ると酷いモラハラだったなと深く後悔しています。そんな時期が有ったからこそ、この「愛する家族にも100%依存しない」という言葉が私自身にものすごく響き、それ以来こんな状態の自分と一緒に居てくれる妻や子に感謝の気持ちを持つことを意識するようになりました。自分が求めている100点の対応が返ってこなくても、常に「ありがとう」の言葉で感謝の気持ちを伝えるだけで、自分はこんなに多くの方々に支えられているんだと実感が出来、気分も前向きになれます。
2.生きているだけで得をしていることを感じよう
5年前にパニック障害を初めて発症し休職していた4ヶ月間、特に夜になると酷い過呼吸の症状に連日悩まされていました。パニック障害でお悩みの方であれば分かると思うのですが、発作中は首を絞められているかの様に呼吸が上手くできない、激しい動悸、冗談抜きで「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖で失神してしまいそうな感覚に陥り、一度の発作で身も心もボロボロにさせられます。そんな状態が毎晩続いていた中、当時会社の独身寮の4階に住んでいた私は、ある時から発作中に「この苦しさから一秒でも早く楽になりたい」気持ちから、無意識に自室のベランダに飛び出し、身を投げてしまおうかと葛藤する日々が有りました。ベランダの手すりを越えて真っ暗な地面を眺めながら身を投げるか否か葛藤している内に、いつも実家に居る家族の顔が浮かび、実際に身を投げることは無かったのですが、その時期は意に反してあらぬ行動を取らないように発作が起きたらすぐに4階の自室から1階のロビーに降りて堪えることを続けていました。同様に、当時は駅のホームに立って電車を待つことも自分にとって危ないことだと考え、乗車する電車が駅に到着してからホームに上がる様にしていました。今になってみれば、それらの対処は正しかったと心から感じています。5年前のあの時、あらぬ行動を取って今生きていなければ、少なくともこの5年間で味わった楽しい経験も無かったし、出会った方々とのご縁も無かった、そして何よりも今一番傍に居る妻や子にも出会うことは無かったからです。私の好きな言葉で、明石家さんまさんの「生きてるだけで丸もうけ」という言葉が有ります。長い人生で考えたら、今この症状で悩んでいる期間はほんの僅か。その僅かな期間の苦しさから逃れる為に死んでしまおうとする勇気が有るくらいなら、その勇気を別の所で使ってやろうと私は心に決めています。
3.悩んでいるのは自分だけではないことを意識しよう
私はパニック障害発症当時、周りに自分と同じ様な症状で悩んでいる方について一切聞いたことが無かったし、ネットで検索しても「発症率は数%」と書かれていて、いつもクジ運は悪いのに(笑)、「何でその数%が俺なんだ」と強く思っていました。パニック発作に怯えソワソワしながら街を歩いていると、すれ違う人はみんな元気で楽しそうにしているのに「何故自分だけ」と自問自答する日々が続いていました。ところが、私が開けっ広げに自分がパニック障害で悩んでいることを周りの友人達に話すようになると、「実は自分も同じ様な時期が有った」とか、症状は自分と違えど、対人恐怖症、適応障害等、想像以上に多くの友人達も各々で苦しんでいた時期が有ったことを知りました。それ以来、私は顔や性格が十人十色である様にパニック障害も「病気ではなく個性」と考えるようにしています。普段いつも明るく笑っているあの人も実は心の中ではこんな事で悩んでいるかもしれない、悩んでいるのは自分だけではないの発想が当ブログを始めた私の一番の動機でもあります。